学生が社会人との対話を通して“働く”を考える。「大しごとーくin信州2023」開催レポート

2023年11月18日、信州大学松本キャンパスで「大しごとーくin信州2023(以下:大しごとーく)」が開催された。大しごとーくは、学生たちが“働くこと”について県内企業と気軽に対話し、仕事に対する自分なりの価値観や将来のビジョンを明確にすることを目指して2018年から毎年開催されているキャリアトークイベントだ。6回目の開催となった今回は、対面会場とオンラインでのハイブリッド形式で実施され、260人の学生と64社の企業が参加した。

学生と企業が対等に交流するきっかけを

大しごとーくの開催目的は次の3つだ。

(1)学生が低年次から様々な視点から具体的に県内企業の強みや良さについて知る機会をつくる。

(2)学生と社会人が気軽な対話の中で「働く」ことについて考え、社会と関わるきっかけの場としてもらうこと。

(3)キャリア選択や就職・仕事に対して感じている不安や迷いを整理し、将来のビジョンを明確にしてもらうこと。

大しごとーくのメインターゲットは就職活動前の1〜2年生。通常、多くの学生が3年生から一斉に就職活動を開始するが、初めてのことだらけで戸惑う学生や、自分に合った企業を見つけることに苦労する学生が多いのが実情だ。そこで、就職活動に対して漠然と抱いている不安を解消しながら、企業との対話を通じて学生が自分自身の将来や働くことについて考えるきっかけを提供するのが大しごとーくの狙いだ。

また、今回の大しごとーくでは、参加企業・団体にも以下のような参加目的が設定されていた。

(4)学生は、働くこと、仕事、企業・団体についてどんなことを知りたがっているか?どんな疑問を抱いているのか?を知り、自社が“伝えたいこと”と“伝えるべき事”の差異を検証する機会とすること。

参加企業・団体にとっても、学生のニーズを踏まえた“伝える技術”の磨き上げは重要な課題だ。大しごとーくは、企業が学生から興味を持ってもらうための実践の場としての利用され、採用力向上の一助になることも期待された。

“カケル”をテーマに、260人×64社が生み出す、それぞれの生き方と働き方

大しごとーくは、企画や運営も学生自身が行っている。信州大学の全学横断特別教育プログラム内の2つのコースに所属する学生が中心となり、事前準備から当日の運営までを担当する。そんな学生運営メンバーが設定した2023年のテーマが「カケル〜目指す先へカケル瞬間を〜」だ。

この“カケル”には、次の5つの想いが込められている。

(1)駆ける:自分を知り、働くことを知り、目標となるキャリア像を見つけ、そこへ向かって駆け出す場所、​という意味。

(2)掛ける:学生×社会人で対話を重ね、それぞれに新しい気づきが生まれる場、という意味。

(3)翔ける:漠然とした将来への不安を一掃し、期待感あふれる将来に翔けあがる場、という意味。

(4)描ける:将来に向け自分が大切にしたい“軸”を見つけ、その軸の先にある自分像を描ける場、という意味。

(5)架ける:未来に対する不安から、期待に満ちた将来への橋を架ける場、という意味。

 

ホップ、ステップ、ジャンプでかけだす!

今回の大しごとーくは、「ホップ〜ステップ〜ジャンプ〜」と呼ばれる3つのプログラムで構成されていた。“ホップ”は学生から企業への質問。“ステップ”は企業から学生への質問。そして最後の“ジャンプ”は、企業から学生へのコメントバックや、インターンシップなどの次につながる機会を知る時間。学生が知りたいことと企業が伝えたいことを重ね合わせ、交流ができる仕掛けが用意されていた。

まず行われたのがホップ。「大変恐縮ですが、ホンネ引きずり出させて頂けないでしょうか!?」のコンセプトのもと、社会人が“ドキッ!”とするような、就活時にはなかなか聞けない質問を社会人にぶつけるプログラムだ。

まず、社会人と学生がそれぞれ2〜3名ずつ集まってお互いに自己紹介。学生は、普段学んでいることやサークル活動について、社会人は、会社紹介と合わせて自分の経歴などを話した。

自己紹介が終わるといよいよ本題へ。学生には事前に複数の社会人向け質問が書かれたワークシートが配布されており、その中から自分が聞いてみたい質問を自分で選んで社会人にぶつける。「学生の時に力を入れたことは何ですか?」「社会人生活での日々の楽しみは何ですか?」といったよくある質問から、「働くのって、楽しいですか?」「今の給料に満足していますか?」といった、普段はなかなか聞けない質問まで多数用意されていた。

ストレートな内容の質問が多いこともあり、会場は徐々にヒートアップ。質問をぶつけられた社会人は臆することなく正直な気持ちで答え、学生もそれに真剣に耳を傾けていた。普段は聞けない話に、時折笑顔を見せながらワークシートにメモをとるなど、前向きな姿勢で交流を楽しむ姿が見られた。

次に行われたのがステップ。「知らない、知りたい!教えて企業さん!」のコンセプトのもと、就活時に⾏われる合同企業説明会を今のうちに気軽に体験する、いわばプチ合説体験プログラムだ。各企業のブースに飾られていたのは、その企業を象徴する製品や、サービスを紹介するパンフレットやポスター。それらを見た学生がほんの1ミリでも“ワカラナイ!”があれば、何でも質問してみるという内容だった。

学生には、ブースを2回訪問する機会が与えられた。各々が自分の行きたいブースに到着すると、企業さんの会社説明がスタート。ブースに用意されたポスターや製品を見せたり触らせたりしながら、学生1人1人に対して丁寧に会社やサービスの魅力を伝える様子が見られた。会社説明が終わると、次は学生からの質問タイムだ。大学で学んでいたことがどう繋がるかといった質問や、働きやすさや待遇面についての質問などが交わされた。

学生からの質問タイムが終了すると、続いては企業から学生への質問タイム。進路についてどのように考えているのか、なぜこのブースに来たのかといった、学生自身の価値観を知るための質問を投げかける様子が多く見られた。最後には、それぞれの企業で行われるインターンシップの紹介なども行われた。

最後のジャンプは、「今日の“気づき”を次(明日)へどう翔ける??」のコンセプトのもと、ホップ〜ステップを経て社会人と学生それぞれにどんな“気づき”や“学び”があったかを、ワークシートを使って交換するプログラムだ。

学生からは「自分が想像していた社会人像とは異なっており、実際に会って話を聞くことの大切さを感じた」、「これまで働き方について考える時間がなかったが、参加したことで就活への意識が高まった」といった声が聞かれた。社会人側からも「こうして学生と出会える機会は少ないから、とてもありがたい」、「学生さんから投げかけられた質問から、自社の魅力を使える方法が他にもあることに気付かされた」といった感想があった。双方にとって、新たな気づきが生まれた時間となっていたようだ。

最後に、社会人からのフィードバックを受けた学生が、今後自分がやってみたい“小さな Do”を宣言してジャンプは終了した。

参加学生が見つけた自分の視点

大しごとーくに参加した学生は、参加後にアンケートに回答した。

その結果を見ると「就活についてのイメージは変わった」と回答した人が7割を超え、「キャリアを考えるために役立ったか?」という質問には、99%以上が「役に立った」と回答した。イベント全体を通しての満足度調査では、参加者の75%が「とても満足している」と回答し、残りの25%も「やや満足している」と回答した。

自由記述でもたくさんの感想が寄せられた。ある学生は、「大学1年生で明確な就活につなげる意識を持っていなかった。それでも、意外な話や様々な視点を得ることができたのでよかった」と回答。別の学生は、「企画の内容を勘違いして後半だけに参加したが、実際に来てみたらもっと色々な企業の話が聞けるチャンスがあったことに気づいた。前半も来ていればよかったと後悔した」とプログラム内容の充実度に驚いていたようだった。

また、彼らのキャリア観にもインパクトがあったようだ。ある学生は、「新卒で入社した会社で人生が決まらないことを知った」や「学部生の時に学んだ学問が絶対だと思っていたけれど、研修などで力を伸ばしてくれる企業があることが学べた」などと回答していた。企業を選ぶ際の基準についての新たな視点を得たようだ。他にも「仕事はきついものだと思っていたが、楽しいと答える社会人が多かった」や「働くことは自分が思っているより楽しいことなのかもしれないと感じた」など、仕事に対しての印象が変わったという学生の声もあった。さらに、「積極的にイベントやインターンシップに参加しようと思った」や「もっと気軽に色々なことをやってみたいと思った」などといった、次のステージを前向きに考える学生の声もあった。

企業を選ぶポイントや仕事観、これから取り組んでいきたいことまで、「働く」という観点を起点に、学生が幅広い視点を得た様子がアンケートの随所に見られた。結果として、「来年度も大しごとーくに参加してみたいですか?」という質問には、8割近い学生が「参加したい」と回答した。

大しごとーくに関わった学生たちの未来に期待を

アンケートから見える、たくさんの高評価の声と満足度の高さ。これらを生み出したのは、運営メンバーの学生の力があってのことだ。企画運営チームの石倉さん(医学部2年)は「企画運営部では、当日行われるプログラムの企画立案と運営を行った。メンバー各々のイメージを言語化してまとめ上げるのは難しかったが、終了後には大きな達成感を得ることができた」と感想を述べた。広報戦略チームの石井さん(経法学部2年)は「参加ハードルを下げるために、プレゼント企画や学園祭でのイベントも織り交ぜた広報を意識した。大学生だけでなく、高校生や留学生に向けても、社会人と一緒に“働くこと”を考える時間を作れて良かった」と満足気に振り返った。

長期間に渡り頻繁に行われていた打ち合わせから、前日まで続いた綿密なリハーサル、そして当日のスムーズな運営。彼らの強い想いと余念のない準備が、こうした結果をもたらしたことは紛れもない事実だ。大しごとーくは、信州大学、富山大学、金沢大学の3大学共同で行う次世代人材育成プログラム「ENGINE」の取り組みの1つである。そこでは「主体性を持った突破力のある人材の育成」が掲げられているが、このイベントを企画・準備・運営まで一貫してやり切ることは、彼らにとっても貴重な経験となっているだろう。

学生の就活に対する意識と企業の学生向け採用戦略には、大きな乖離があることが指摘されている。学生が都会に流出し、県内の労働人口が減ること。企業が学生に魅力を伝える機会やノウハウがないこと。これらは双方にとって非常に大きな機会損失だ。その中で、大しごとーくという場が用意されていることは、学生、企業双方にとって可能性が広がる大きなチャンスだろう。

最後に、「大しごとーくin信州2023」実行委員長の関さん(教育学部2年)に、大役を務めての感想を聞いた。

「半年かけて準備をしてきたが、多くの方が満足して帰っていただけたようで嬉しい。参加した学生が輝く未来へ“カケル”一歩を踏み出すことを期待している。ここまで支えてくださった多くの関係者、不安が多い中で一緒に悩み考えてくれた仲間に、改めてありがとうを伝えたい」と力強く語った。

こうした学生の想いがさらに広がり、引き継がれていくことを願うばかりだ。これからの更なる飛躍が楽しみである。