ENGINEインターンシップ「ローカル越境プログラム」発表会 〜後編〜

金沢大学で2023年9月22日と23日に開催された、「ENGINEインターンシップ ローカル越境プログラム発表会」。信州大学・富山大学・金沢大学の3大学が連携した、地域を変革していく人材を育成するENGINEプログラムの主要なカリキュラムです。前半ではプログラムに参加した6斑の最終発表が行われました。続いて、企業メンターによるフィードバックと振り返り、そして学生のインタビューもレポートします。(前編・後編の二部構成です。前編はこちら

学生ならではの着眼点に感心──企業メンターによるフィードバック

A班に──SBC信越放送
5月から比べるとプレゼンが上手になった印象です。情報を取り扱うなどの得意分野はもちろん、弊社のこともよく理解してくれていたと思います。問題を抱えながらもずっと解決していないテーマに取り組んでいて、とてもよい提案でした。また、発想力が柔軟で素晴らしかったです。データ調査を通して提案してもらい、メンター企業として嬉しいです。また、調査した対象にデマンドタクシーを利用するメリットをもっとアピールしてもよいかなとも思いました。もっと押してもよかったのでは。その方が、説得力が湧きます。
B班に──長野銀行
松本を食で活性化するということですが、そこに銀行の目線を入れるのに苦労したのではないでしょうか。ニーズ提案の時、結果的に活性化するかどうかしっくりこないことがあったと思います。ブルワリーの視点で見れば、郷土料理とスイーツの提案が新たなメニューになり、再生紙のコースターが環境への取り組みを広げました。もっと銀行的に変えていくとすれば、ビール生産が間に合わないので大きな工場が必要ということに着目。その際、売上規模を考えるのは必須で、客単価を上げるためにすべきことは新メニュー導入である、とつなげていく提案でもよかったかもしれません。
C班に──立山科学
将来の採用のためにターゲットを小学生に持ってきたという着眼点は学生ならではの柔らかさで、とても面白いです。若者が定住するため、ものづくりに興味を持ってもらう根拠をデータとして見せてもらうなど、スムーズで提案のポイントも分かりやすかったです。富山の企業の力が必要になるので、つながって取り組みに発展すればいいなと思いました。
D班に──日本海ガス
とても濃い内容で、楽しんで聞かせてもらえました。この難しい課題をどう捉えていくか心配していたのですが、1人1人真摯に取り組んでもらい感動しました。内容はとても精査されている印象を受けます。空き家事業は社内でも検討中で、今収益の課題を詰めているところです。ワークグループのメンバーと共有したいと思える内容です。そして「伴創」という言葉が気に入っています。ガス会社、インフラ会社のマインドとして共感しました。
E班に──こみんぐる
この課題を良く仕上げたなと思いました。考えていくプロセスをチームで体験できたと思います。最終発表の中身自体は以前と変わっていませんが、考えながら新規事業も浮かび上がったとのことでした。まだまだ加えていく余地はあるでしょう。あと、発表内容はしっかり覚えてきてほしいですね。
F班に──MRO北陸放送
とても聞きやすい発表でした。定義、課題、魅力など分かりやすいプレゼンテーションだと思います。事前調査や構成がうまいし、仮説を実施につなげたのも良い点です。実際マチナカに出て学んだことを提案に入れましたが、調べて分かることと現地で分かることでは解像度が違うと実感したと思います。今後個人のアクションにどうつなげていくか、楽しみにしています。
続いて、リンクアンドモチベーション社のフィードバックシートを元に、他企業のメンターと振り返ったときの意見を集めてみました。
「最初に比べると表情が全然違う。解決しない問題をまとめてもらって、自分でも勉強になった」 「成長を実感したのは顔つきが変わってきたこと。ここで付いた自信だろう。辛くて大変なこともあったと聞いたが、その苦労が実ったと思う。武器を身に付けて進んでいってくれたら嬉しい」 「このプラグラムに自ら踏み込んで5カ月頑張った経験は、学生生活の中で大きなものになる。社会に出ると辛いことや厳しいことがあるが、この経験はどこかで必ず生きる」 「ENGINEプログラムを知って参加している皆さんは、有利であると思う。そして大事なのは明日から何をするか。すぐできることは何かを考えることで、イノベーションが起きている。いくつも積み上げて自分の成長を感じてほしい」 「中間発表から見ているが、成長しているのが分かる。チームメンバーの強み弱みを指摘し合いながら成長しているのが感慨深い」 そしてコーディネーターの勝亦達夫氏からは、「各チームのメンターにこのフィードバックを届けてほしい。そしてチームにこだわらず交流を」というコメントが寄せられました。

相互フィードバックで、さらに新しい発見

翌9月23日、今度は各班に分かれて「相互フィードバック」を行いました。これは、ルーブリック評価指標を定めて「メンバーの強みと思う項目」「メンバーの最も変化したと思う項目」を、同じ班のメンバー全てに対して評価するものです。 今回、評価指標として挙げたのはENGINEが掲げている3つのフェーズに関係する以下の8項目です。 【創新】 ・現状を把握する力 ・目的を設定する力 ・変わり続ける力 【創新】 ・つなぎ合わせる力 ・巻き込む力 ・役割を果たす力 【突破】 ・粘り強くやり抜く力 ・失敗を恐れず挑み続ける力 班では企業メンターがモデレーターとなり、1人1人がフィードバックを話します。メンバー全員の前で熱を込めて自分のことを評価されているので照れくささもあったようです。しかし、自分では今まで気付かなかった点も多く指摘され、改めて発見がありました。 いくつかのフィードバックを紹介すると── 「現状把握の力が役割を果たす力につながっている」 「アジェンダ作成がうまい」 「議論を本質に戻してくれる」 「前向きに、主体性を持って進めてくれる」 「理論的に話せる人」 「高度なリーダーシップを持っている」 「グループ外の人たちともつなげてもらえた」 「常にアップグレードしていった」 「言語化と整理力がある。いつも何をすれば良いか分かっている」 「どこまでできるか見極め、自己分析もできていた」
などなど、言われてみて初めて「自分てそうだったんだ」と分かったことも多いようです。その後で、メンターからも1人1人についてのフィードバックをもらいました。さすがにメンターはメンバーを良く見ていて、成長についての的確な指摘をしていました。 最後に総括をして、フィードバックのセクションは終了しました。

ENGINEでこんなことを考えた、将来こんなことをしたい

──受講生インタビュー
プログラムとは別に、信州大学特任教授でENGINEプログラムの運営を担当している矢野俊介氏から、会場の受講生たちに質問形式のインタビューを行いました。大学も出身も異なる学生がメンバーとして出会い、どんなことを経験して考えているか、そして卒業後は何をやりたいか……ENGINEの効果が垣間見えてきました。 矢野 まず、なぜENGINEを受講してみようと思ったか聞かせてください。 ──普段あまり出会いがない環境にいるので、自分を高める成長の場として選びました。 ──他大学、他学部の人たち、そして社会人とも交流できるプログラムが魅力的だったからです。 ──人間的にレベルの高い人が多いし、民間企業がどのように地域活性化事業を行っているか興味がありました。 矢野 3つの大学が同じカリキュラムを取ることに、どんな期待を持っていましたか。 ──その大学にしかないことを学びたいと思っています。違う背景を持った人たちが集まりやすいのではと思います。 ──私の出身は九州で、縁もゆかりもない北陸の大学に通っているのですが、さまざまなバックグラウンドの人たちと話し、いろいろなことを知りたいです。石川も富山も長野も知らないことだらけで、共同プロジェクトを通じて自分が思い描いていたことを具現化できるのがいいと思う点です。観光でしか来たことがなかった街でしたが、当事者意識を持ってプロジェクトに取り組めました。 矢野 現時点で、どんな就職先を考えていますか。 ──私は市役所を志望しています。人と接することが好きなので、市民とのつながりが多いところがいいと思っています。 ──農学部ですので、食品に興味があります。まだ絞っていませんが好きな長野県でとは思います。 ──最終的に、どんな職業でも良いのでここで学んだことで地元に貢献したいです。 ──富山にこだわっていましたが、このENGINEプログラムと夏休みを使って他の県も見て、最後は自分の意思で考えてみたいです。 矢野 仕事に対する考え方は変わりましたか。 ──漠然と公務員、と考えていましたが、このプログラムで企業や行政の考えを学ぶとができ、橋渡し役は難しいけれどやり遂げたら面白いなと思うようになりました。 ──長野銀行にご協力いただいて、銀行の仕事や、自分たちが銀行の立場になったら何ができるか、計画から実施までのプロセスも考えることができました。実際に自分が就職した時の様子も思い描けました。 ──親や親戚が公務員と銀行員だけなので、違う業界に勤めたいと思っていましたが、今回銀行と組むことができて、地域と銀行のつながりを知ることができました。将来の選択肢に銀行も入ってきそうです。 矢野 ENGINEインターンシップの面白いところや参加して良かったところを教えてください。 ──外から見た自分を知ることができる点です。 ──就活でこの経験を伝えることができること、そしてこれからのビジョンを示してくれることです。 ──自分たちで自由に考えて進められ、目標を設定してクリアしていくことを何度も繰り返して経験しました。自分のしたいことをアウトプットして、それを受け入れてくれる環境があります。 ──自分では弱みだと思っていたことが実は強みだったと知ることがありました。自分を客観的に見て、新しい発見もありました。 矢野 皆さんに刺さったメンターの言葉などはありますか。 ──自分がなぜ優柔不断なのか、メンターが考えさせてくれました。突き止めようとする時、「なぜ」を3回繰り返すように言われ、強みや弱みを客観視できるよう視点が変わりました。 ──難しい質問をよくされましたが、よく話を聞いてくださっているからこそ答えにくい質問が来るのだと思いました。 ──困っている時、忙しいはずなのに丁寧に返してくれました。 ──企業メンターは「社会人としては全然足りない」という指摘をされ、社会人として何を考え何をすれば良いかが分かりました。 ──企業と1回やり取りするだけですごい情報量が返って来ることに驚きました。言葉の使い方やリアクションなど、社会人としての所作を直に吸収できました。

コロナ禍を経て、ENGINEプログラムは新局面へ

ENGINEプログラムがスタートした2021年は、まさにコロナ禍のまっただ中でした。それから2年経ち人の行き来が戻ってきた今年、新たなフェーズを迎えたのかもしれません。3大学による連携はさらに密度を増し、フィールドワークやミーティングなどもより臨場感の強いものになってきました。今回の「ローカル越境プログラム」はそのさきがけです。学生と大学、企業が密にコミュニケーションを取りながら、新たな地域創生人材を生み出していく予感に満ちていました。これからのENGINEプログラムにもご期待ください。