ENGINEインターンシップ「ローカル越境プログラム」発表会 〜前編〜

令和5年年9月22日と23日、金沢大学で「ENGINEインターンシップ ローカル越境プログラム発表会」が開催されました。信州大学・富山大学・金沢大学の3大学が連携して地域を変革する人材を育成するENGINEプログラムの主要なカリキュラムです。半年間かけて取り組んできた、3大学を横断した6チームがその成果を発表し、企業メンターの皆さんが講評を加えました。その発表会の模様をレポートします(前編・後編の二部構成です)。

ENGINEとは、連携により地域を変革すること

ENGINEは、文部科学省「大学による地方創生人材教育プログラム構築事業(COC+R)」の一環として、地域の変革人材として成長することを目指し、令和年2年度に発足しました。キーワードは「創新・連携・突破」。それぞれの側面を強化した人材を育て、地域に送り出す使命を持っています。ENGINEの特徴として、信州大学・富山大学・金沢大学という3地域3大学を横断したカリキュラムを取っていることが挙げられます。コロナ禍を経てリアルでの受講や合宿、イベントなども増え、より活発に動き始めました。 令和5年度の取り組みは、「ローカル越境プログラム」として各大学の1〜3年生と地域企業からのメンターも加わった6つのチームを組み、地域企業が設定したテーマ(課題)について解決策を探るというもの。 そして令和5年9月22日と23日に、金沢大学角間キャンパスを会場として最終発表会が開かれたのです。

5カ月間の成果を6チームが発表

発表会の1日目は、まず金沢大学でENGINEプログラムの非常勤講師を務める広瀬一樹氏がMCとして登壇。広瀬氏は今回のコーディネーターとして学生と企業を結び付ける要の役割を果たしています。ENGINEプログラムとは何か、そして今回の「ローカル越境プログラム」の趣旨を説明。地域に踏み出しながら、企業が持つ課題をどうやったら解決するかを学生と一緒に探っていくものです。今回、3大学の学生計24名が混成で6つの班に分かれ、観光・製造・金融などに関わる3県の企業と連携して、進めてきました。各班は学生が4人と企業メンターが1〜2人の構成です。オンラインでのオリエンテーションの後、長野でフィールドワークを行い、初めて顔合わせしてチームが結成されました。その後は定期ミーティング、合宿なども実施。5月のスタートから9月までの5カ月間、課題に対する解決策を探ってきました。 発表会場ではプログラムに取り組んだ各班の学生、企業と学生の間に入って支えたコーディネーター、さらに企業メンターの皆さんも紹介されました。各班で提案を発表した後、ルーブリック評価指標に基づいて評価。企業メンターからもより具体的な講評やアドバイスを受けました。

緊張をほぐしながら、発表開始

発表会は、ゴールとしての各班発表、行動をチームメンバーやメンターと一緒に振り返ります。振り返ることで、自分の学びを言語化することができます。「アクセル全開で集中」「ギアが噛み合うかのように相互に作用し合う」「失敗してもメンターやコーディネーターがサポートするからOK」というENGINEのグランドルールはここでも適用される、と広瀬氏。 さらに、発表前にチームメンバーでアイスブレイクの時間を作りました。チーム内で今の気持ちを一言ずつ共有し、緊張をほぐしました。 そして、その後から発表を開始。1つの斑につき15分の持ち時間で現状・目指す姿・解決策を入れ込んだ内容で行われました。

A班 「デマンド交通」が地域の便利を変える

テーマ:高齢者の免許返納促進と生活の両立 信越放送(長野県企業)〜この一見矛盾する課題の解決のために、何ができるか考えよう〜
目的を「地域に住む人にとって安全安心で便利な社会構築をしたい」と定め、現状把握から始めました。75歳超の人たちの死亡事故件数が増えていることから、免許返納を推進する必要がある。しかし返納すると移動手段がなくなる。その代替手段が「デマンド交通」という段階で解決策を探ります。ルートを自由に変えられるというデマンド交通のメリットを、路線バスと対比させて説明しました。 クルマ社会の地域でフィールドワークを2回実施。SNSでの情報発信に加え高齢者にはテレビやラジオを活用、自治体がデマンド交通に関わる重要性が浮上しました。 また、税金投入の是非について長野県知事に直接質問も行いました。結果、社会資本としての重要性が勝るが、自治体での最低限の創意工夫は必要となりました。 さらに、自治体格差があるとの仮説を立て、DX拠点であるCore塩尻でデマンド交通を開始した塩尻市の例を説明。全ての自治体で行うためには、放送局や新聞社のマッチング事業の可能性も提案。SBC信越放送がデマンド交通のできる事業社と長野県内の自治体をマッチングさせる可能性がある。最終的に免許を返納しても地域住民が安全で便利な生活を営める社会を構築できる、と結びました。

B班 ブルワリーの多業種展開を金融機関の視点から

テーマ:今後の松本市の観光と食を活性化するために、「金融機関」ができることを考えてください長野銀行(長野県企業)
現状把握として、松本市の食材や郷土料理の認知度が低いことが挙げられます。しかし来訪のリピート率は高いことも分かりました。結果、観光地としては確立しているが、食を目的としての松本市は認知不足というところから目指す姿を描き始めました。 課題解決のため、長野銀行のコンサルティング力に着目。これが地域活性化へつながるものと捉えました。地域活性化を目指す企業としてクラフトビール醸造の松本ブルワリーを候補に定めました。地元からも観光客からも愛されるブルワリーです。ビアフェス信州にも視察に行き、活性化の核にできると体感しました。 そして導き出した展望は、「松本市のファンを増やす」「環境に貢献」という2点に、食の付加価値を加えること。日常でも観光客が地元食材を楽しむ姿を実現するため、松本ブルワリーのタップルームに着目。郷土料理のメニューで「食」の面を押し出します。さらに、アルコール分解に役立つというスイーツも取り入れ、関連企業とのコラボで相乗効果を提案。もう一つ、環境への貢献については、モルト粕でクラフト紙を作り、タップルームのコースターに利用することを考えました。これらの提案で、目指す姿を見える化できると結論付けました。

C班 若者とものづくりの接点=工場見学×自由研究

テーマ:若者がものづくりに興味を持って富山に定住するためには 立山科学(富山県企業)
富山県は北陸のものづくり県で産業集積が高いのですが、地元学生の志望が少ない傾向が続いています。これはB to B企業に共通した課題です。調査により、県内企業は学生の認知度が低く選択肢に入らないことが分かりました。 そこで、定住のためにはまず富山県の製造業に従事してもらうことが大切であることから、ターゲットを小学生に定めました。地元企業と早くから触れ合い、企業との接点を増やしておくことが有効と考えたからです。その手段として、「ミッションカンパニーレース」を発案しました。ミニ四駆のレースを例とし、まず立山科学はじめ複数工場のバーチャル工場見学、その際にクイズを出題しミニ四駆の改造パーツをゲット、企業のメンターと一緒に組み立て、レースに出場して成果を実感。さらに大会後はこれを自由研究のテーマにします。まず好きなことからものづくりに興味を持ってもらえ、それを通じて企業の人との触れ合いもできます。低学年ではプロペラ飛行機レースを行っておけば、ミニ四駆との継続性も生まれます。企業と若者双方にメリットが期待され、製造業従事につながっていくという発表でした。

D班 空き家リノベを「伴創」として脱炭素を事業化

テーマ:環境に優しい社会の実現における、エネルギー会社の役割と存続のための課題解決とは? 日本海ガス(富山県企業)
まず課題を、環境に優しい社会=脱炭素社会、エネルギー会社の役割=脱炭素社会実現の生活基盤を整えると読み替えました。そこでまず、空き家をリノベーションして飲食店や宿泊施設に転用し、町全体が活性化した長野市の例を紹介。脱炭素社会を目指しCO2を減らすまちづくりのため、空き家を用いた新規事業が必要という仮説を立てました。 日本海ガスはガスの閉栓により空き家の状況を把握でき、グループ会社のサービスも活用すればトータルコーディネートが可能です。この事業化により富山の魅力が広がり、街の中にコミュニティが生まれます。一方、日本海ガスの目指す姿は事業の柱を増やし総合エネルギー会社になることで、Win-Winの結果になるでしょう。 事業内容は、不動産会社の空き家活用事業、リノベーション会社のマッチング、経営サポートの3つが柱。空き家バンクやリノベーション料金プランも設定し、仲間を見つけやすくするマッチングサービスも行います。経営サポートは、起業ノウハウを日本海ガスのグループ会社が提供します。 日本海ガスの伴走で利用者に安心感が生まれ、入居者が増えて賃貸収入が期待できることが安定化の基盤となるでしょう。

E班 地元企業の魅力を発見するプログラム立ち上げ

テーマ:若者が石川県で働きたいと思う街にするにはどうしたら良いか。 こみんぐる(石川県企業)
調査により、学生が金沢に留まらない現状が浮かびました。原因は、中小企業の魅力が知られていないことが挙げられます。働きたい街にするためには、魅力ある中小企業のことを周知させること。これは、「100年後も家族で暮らしたい金沢を作る」というこみんぐるのビジョンともつながります。チーム員は、地元企業の経営課題解決プログラム「WorkitAscension」という、地元企業と大手企業の社員がチームを組んだ合宿を手伝いました。そこで得た気付きや学びから、これを発展させて地元企業と、特に私立大学生を繋ぐ「F-Workit」を提案しました。就活生と地元企業が3日間合宿し、3日間足を使って調べ、企業の前で課題解決案をプレゼンテーション。学生は企業のことを深く知ることができ、企業にとっては人材との出会いも生まれます。これは他の就活イベントとの差別化ともなります。マネタイズについては、企業の参加費から経費を引いた額を利益とします。 ただし残論点として、県内志向以外の学生も石川県へ就職してもらうために、地域とのつながりを深められるような魅力発信プログラムが必要ということも最後に加えました。

F班 学生の街歩きにより賑わい創出

テーマ:金沢のマチナカの活性化のために学生目線でできることを提案せよ。 MRO北陸放送(石川県企業)
金沢は人気観光地ですが、オーバーツーリズムに陥っている一方、空洞化が目立ち空き家率も高まりました。そこで、学生が多い街である金沢の特性を生かし、学生が日常的に集う場所と機会を作っていくことに。フィールドワークによって、飲食、ファッションなど人がマチナカに向かう目的を作ることが重要であると方針付けました。それを見つけるため、実際にまち歩きイベントを実施。曜日やコース、目的は具体的に決めるべきという学びを得ました。 提案は、「まちなかワークショップ」の開催。拠点は金沢学生のまち市民交流館に設定。ここは賑やかなエリアの中心にあります。そしてテーマをいくつか設定し、それに沿ってグループごとにまち歩き。その後、情報をシェアしてマップを作成します。参加人数は段階を追って増やしていき、対象規模を広げていきます。情報発信はSNSでの拡散、交流館での掲示、店舗にも協力を仰いで広めてもらいます。 賑わい創出、学生の目的発見、学生のマチナカ利用度のアップを図り、学生でマチナカが賑わうという好循環が生まれるという予測を発表しました。